現在のポスト産業資本主義社会においては、デザインを単に色・柄・形などのモノづくりと捉えるだけでは足りず、4つの「時代のコンテキスト」を基盤としたデザイン戦略のもと、これからはデザインがどのように社会とかかわっていくべきなのか、などをお話していただきました。
また、奥田氏は、「差異こそが価値」であり、差異が見える表現をすることで価値が生まれるため、差異を具体的に見せるのがデザインである、と時代の変化に対応したデザイン活動の重要性を述べられました。
全文には、なかなか聞くことのできない、奥田氏が携帯電話のデザインに携わっていたころの携帯電話の栄枯盛衰のお話や、4つの「時代のコンテキスト」を基盤としたデザイン戦略の詳細が記載されております。是非、ご覧ください。
平成26年3月13日(木)
第2回DSPセミナー 基調講演
「事業課題とデザイン戦略 ―TPPと日本の知的財産の危機―」
奥田 充一
ただいまご紹介いただきました、奥田と申します。
この話は、聞かれて方がいらっしゃると思います。カイ・インターナショナルさんがDSP事業展開されるに当たって、皆さんに一番解ってほしいと思うことを、「事業課題とデザイン戦略」というかたちでまとめさせていただきました。この内容を少しでもご理解いただいて、デザインって、単なる色・柄・形じゃないよ、特に、私は大手電気メーカーで、デザイン戦略というものを考えるポジションにあり、「会社の事業に如何に貢献していくか?」、そういう視点でデザインを見つめなおす機会を得たことも有り、今更ながらデザインってものすごい力を持っているなと、自らそう思い始めました。結果、デザインを単に色・柄・形のモノづくりに限らないで、もう少し皆さん方に巾広く理解してもらいたいなと思って、今日はお話しさせていただきたいと思っています。
「デザイン戦略」って何だ。英語でstrategyと言いますけど、strategyという考え方というのは、日本語の「戦略」という言葉に直すと非常に問題がありまして。というのは、戦略と言ってしまうと、戦争とか攻略とかそういうことをイメージするんですが、strategyは、ある目的を達成するために、どういう風に物事を進めていったらいいんだろうと言うニュアンスになります。
デザイン戦略を、私なりに定義してみました。
まず、①長期的、全体的展望に立って、時代に起こるべき基礎を確認していく。それから、②目的を設定する。今回は事業ということがテーマですので、事業目標と事業の課題を明確にしていこう。それから、③枠組みや方向性を計画し、④目的達成するための情景やリソースを準備し、⑤効果的な運用をするための計画を立てる。これが、私なりのstrategyという解釈です。こんなことって事業をやっている方は普通に考えているよね。じゃあ、具体的にデザインで戦略ってどういうことかということを考えていきたいと思います。
「長期的展望に立って物事を考える」ということは、デザインという視点で見るとどういうことかというと、時代のcontext より中期的計画を立てる。
「目的を達成するために事業目標を明確にする」。これは事業目標ですから、基本的には数値目標に置き換えないと本当の目標にはならない。例えば、「デザインのいい会社にしたい」じゃなくて、「デザインで日本でNo.1になりたい」とか、そういう目標、少なくとも検証可能な数値目標を立てる。
そして、ユーザーや時代のcontext から意味を読み取り、その意味を新しい枠組みや方針として「明確化」していく。ユーザーのコンテキスト。「context」という言葉は、実は非常に難しい解釈が必要になるんです。そのまま直訳すると文脈なんですけども、小説を読んでいるときに、ずっと今まで読んできた中、歴史、いろいろなページの数だけ頭の中にコンテキストがあるわけです。その上で、その行間を読むという作業を頭の中でしますよね。同じ様にユーザーや社会の中で、その時代の文脈をきちっと読み取って、その意味を理解した上で、新しい枠組みをつくっていくということです。
それから「目的を達成するための条件やリソースを準備し」とありますけども、自社のリソースの過不足を考える。ある目的を達成するための条件と現実のパワーとのギャップ。つまり、理想と現実とは違う。自社の能力というのは現実ということです。目標を達成するために足りない事柄は何があるんだということを、しっかり認識することです。
「効果的に運用するために計画を立てる」というのは、アクション計画。場合によっては組織改革。それから、開発プロセスまで変えてしまうという作業をしていかなければなりません。
そして、運用計画に沿って、これは後でperspectivesという言葉も出てきますけども、時間軸で実行計画をたて、計画的に検証を行い運用結果をちゃんと検証して、そのたびごとに計画を戦術的に変更しアクションプランを精度の高い計画に変えていく。そして検証とアクションプランの変更を会計年度である四半期ごとに私はやってきました。
一番ややこしい「時代のcontextを読む」。これは、実は、今でも通用する内容なんで、ぜひ今後、頭の中に入れておいていただきたいなと思うんです。
実は、私がエレクトロニクスメーカのデザイン責任者になったのは2004年です。2004年の時代背景、世の中というのはどういうふうに捉えたら良いのかということなんですが、すなわちこの時代のコンテキストは、
「1、物質価値から情報価値へ」。「2、産業資本主義からポスト産業資本主義社会へ」。それから、「3、グローバル時代の産業資本主義」。それから、「4、ポスト産業資本主義社会のデザインとは」。この4つの時代のコンテキストをベースに、すべての戦略を組み立てています。
一つは、情報価値の時代というのは具体的に見たらこんなことです。
今まで、世の中というのは物質、それから機能、技術、性能。この辺りがものすごい、重要なお金になるアイテムだったんだけれども、それはもう違いますよと。今の成熟した先進国では、物質ではなくて体験、それから美意識、保障、性能、この辺りに価値が動いていますと。で、先進国に限らず、新興国もこちらへ向かって動いていっています。それを具体的に貨幣で表しますと、こういうことです。金から硬貨へ。硬貨から紙幣へ。紙幣からカードへ。それから、この間、話題になりましたビットコインと。ビットコインについては、実は私は使ったことはないんですけど、あの発想は革命やと。新しい時代の、ものすごい予兆やという風に理解していいと思います。
すなわち、すべての価値は“0”、“1”に置き換えられる時代になってきている。われわれが海外旅行をしたときに一番信用されるのがクレジットカードです。全てがこれで解決できます。ところが、国とかいろいろな枠組みの中において、ビットコインはそれを超えてしまっている。ある意味、危険なコインなんですけど、そういう風に時代は大きく変化していますよというのが、情報価値時代ということです。
2つ目は、産業資本主義社会から、ポスト産業資本主義社会。これは、デザインという概念が生まれたのは産業資本主義社会です。それを飛び越えてしまった現代『ポスト産業資本主義社会』を追うのに、まだ昔のデザイン観『産業資本主義社会のデザイン観』で物事を考えるのかという話です。この考え方は、当時、東京大学で教鞭をとられていた岩井克人先生のお考えが元になっています。経済学者としては、私が最も尊敬している方です。
初見の方がいらっしゃると思うんでちょっと説明しますと、商業資本主義社会というのは、海のものを山へ持って行ったら価値が生まれますよね。中国のものをヨーロッパへ持って行ったら価値が生まれます。このように地域の産物に差異がありその差異が価値を生む。
ところが、18世紀以降、工場生産という産業革命が起こり、産業資本主義社会に変わった。ここでインダストリアルデザインという概念が生まれてきたんですけども、産業資本主義社会の構造というのは、工場制機械工業による生産性の向上と、都市部と農村の賃金格差。この賃金格差という差異が利潤を生んでいたんです。これはこの利潤構造は、特に日本なんかの先進国では、もうまったく通用しない。だから、中国へ行く、ベトナムへ行く、バングラデシュ。ここでは利潤格差があるから、ちゃんと利益が出る。同じモノを大量につくったって利潤が出てくる。この構造の中で、われわれの工業デザインというのが生まれてきたのがモダニズムデザインなんです。
私は、1970年代にこのモダニズムデザインの勉強をしているから、このモダニズムデザインにばっちり染まっています、この自覚が重要なんです。でも、この中でデザインを考えていたら、ポスト産業資本主義社会のデザインというのは対応できない。では、ポスト産業資本主義社会の考え方というのは?すべて差異がなくなってきた時代に何をしたらいいか。極端に言うと無理矢理、差異をつくる。この差異こそ価値なんです。
さっきの情報化社会の話をイメージしていただいたらいいんですけども、情報というのは0と1で言うと、有ると無いで成り立っている。すなわち差異がつくり出さない限り、情報は生まれない。差異として情報を創出して行くこと。このようなデザイン活動をしないといけない。
それから、もう一つ、グローバル時代の産業資本主義というのは、先ほど言いましたけれども、私はいつも、製造業は世界を渡り歩く「ノマド」であると言っています。ノマドというのは遊牧民。そこで牧草が無くなったら次行く。そういうものであると。それから、ノマド化した製造業は世界へ出て行っている、ということは、単純な製造業というのは、もう日本には残らないということです。そういう認識に立たなきゃいけない。そうすると、特に大企業が海外に出ていったら、中小企業は一緒に出て行くか、これまでと同じことをしていたのでは、死ぬしかない。それしか方法がないのです。もう一つあるとすれば、ここ10年来、行われていた賃金を下げる、新興国並みに。賃金を下げたら新興国と対抗できる。賃金上げたら仕事がなくなる。
それから、もう一つ、グローバル時代の、これは日本人、あんまり気付いていないんですけども、アップルのパッケージを見ていただきますと、“Designed by Apple in California”と書いてあります。Made in Chinaとは書いてない。Made in USAと書いてない。どういうことかと言うと、デザインと設計はアップルがやって、世界中から、特に日本とドイツから良い部品を中国へ集めて中国で組み立てている。中国はまだ、産業資本主義社会に居るから、中国だけじゃなくて、そういう賃金格差があるところで利潤を得る仕組みになっている。で、実際にアップルは何でもうけているかと言うと、後でまた出てきますけども、ソフトウエアとデザイン。広義のデザインで飯を食っている。
じゃあ、そういう風な中で、さっき言いましたように、インダストリーから生まれたプロダクトデザイン、インダストリアルデザインのパラダイムが壊れたとしたら、どういう風にデザインしたらいいのか。これはいろいろ課題があります。これは奥田が勝手に言っているだけの話です。価値を意味表現しなきゃいけない。形に機能や性能以外の意味が見えるように表現しないと価値は生まれないという構図です。デザインは価値を意味として明確にすること。意味というのは、ちょっと難しい言葉で言うと、discourse(言説)と言う言葉で言われます。要は世の中の価値から生まれてくる新しい意味を言葉や形で表現されたもの、という意味です。そういう風なものとしてとらえている。
それから、その価値ある意味を「形やイメージやシステム」に具体的な形に置き換えられるのがポストモダンデザインなんです。これこそデザイナーの仕事。それさらに言うと、その表現されたものが差異として認識されないとそこには、価値は生まれない。要は、最終的には差異が必要です。
これがポスト産業資本主義社会のデザインということで、実は、私なりに20年ぐらいデザインを研究していて、こんなにいろいろなデザインの概念があるんです。「ヒストリシズム」、「バナキュアリズム」、「セマンティックファンクショナリズム」、それから、「アーキシズム」、「ミニマリズム」、「アーキタイプデザイン」、「ユーザーエクスペリエンスデザイン」、「ユニバーサルデザイン」、「ヒューマンセンタードデザイン」、「インクルーシブデザイン」、「サステナブルデザイン」、「ソーシャルデザイン」。
何を意味しているかと言うと、デザインのメソッドとその価値目標であるイデアを切り離して一旦考えると、その前に立つイデオロギーとかイデオとか目的とデザインメソドを結びつけると○○デザインと言うことになります。場合によっては、戦争とデザインを結び付けたら、ちゃんと戦車が生まれてくる。お金を出そうというバリューが生まれるから、兵器のデザインが生まれてきてします。でも、人類の目標というのは、多分そこにはないと信じる善良なデザイナーはそれに変わるバリューを探していかなきゃいけない。
実は、ここに書かれているデザインイデオロギーを、それぞれのデザインについて一つ一つ説明すると、この数十分の時間では説明しきれないんで、そういうデザイン概念があるということで、ここからいきなり飛んでしまいましょう。今だったらできる携帯電話の話に、ポンと飛んでしまいます。
携帯電話というのは非常におもしろいアイテムで、私は2004年にデザインの責任者にになってからずっと、日本の携帯電話の栄枯盛衰を見てきまして、その中にデザイン戦略もあったんです。どれだけデザインを関わったか解らない。実は、私が一つ一つデザインするわけじゃなくて、デザイン戦略の推進と言う方法を取っています。
ここに、まず、事業課題を書きます。ここに外因性の事業課題と書いていますけど、実は、内因性の話はできません。内因性の事業課題は世の中に出すことができないのですが、外因性というのは、社会で一般的に認知されている事業課題。このことについても、多分、本当に携帯電話のデザイン開発に真剣に関わったことのない方はあまり知られていないことです。携帯の国内トップブランドをつくろうという事業目標を作ったときの外因性の事業課題を整理してみました。結論から言いますと、一番悪いのは実は通信、郵便を司る総務省の役人、結論はそこです。
日本の電話事業というのをどういうふうにやっていったか、携帯電話の端末メーカーを考えてみましょう。これは実は携帯電話の仕組みをNTTドコモと一緒につくってきた人たちが一緒にやってきました。このキャリア中心の携帯電話構造というのが非常に面白くて、俗にいう垂直統合モデルの事業形態。キャリアの言うことは絶対、キャリアがサービスや仕様を決定する、利用者はキャリアの指定する端末(携帯電話機)は自由に選べるが端末(携帯電話機)を自由に選んだ上でキャリアを選ぶことは出来ない。こういう事業構造をつくっていっているのです。
それから総務省は何をしたいかというとグローバルに日本のシステムでデファクトをつかみたかったのです。見事に失敗しました。だからガラパゴスになってしまったのですけれど。そういう外因的な問題。
もう1つ、官僚主導で今までの産業構造でデザインを考えたら何が起こるかというと、携帯電話の意味というのが本当に官僚や官僚主導のメーカーには理解できてない。というのは携帯電話機というのを通信機器としか理解できてない。後で出てきますけれどユーザーは全然違う携帯電話に対してモノの見方をしている。
すなわち官僚や官僚主導のメーカーの携帯電話に対するディスクールと社会のユーザーの携帯電話のディスクールが違っています。そしてユーザーはハードウエアしかあまり興味がない。もう携帯電話の時点からソフトウエアとハードウエアが一体で商品です。でもソフトウエアはメーカーの仕事ではないので協力会社に任せておこう、そのような感じだったのです。メーカーもそうです。当時シャープだけだったと私は認識していました。社内にインターフェイスデザイン開発の出来るソフトデザインセンターを持っていたのは。
ちょっとまとめてみますとこういうことです。User Experience Designが理解出来ていない。User Experience Designというのはユーザー体験をデザインしようということです。だからハードもソフトも、それこそWebも何もその枠組みを全部外れてトータルにユーザー体験をデザインしていきましょうということです。
また「SH」はブランドではないのです。携帯電話だけメーカーロゴというのは付いてないのです、どこも付いてなかったです。キャリア主導の垂直統合型事業ですから、要は品番しか入れられない。これは企業色を消しなさいという意図です。しかし品番であろうがロゴであろうが、ブランド構築は可能です。
時代のコンテクストを読めということはこういうことで、今お話ししたことをまとめますと、キャリアと官僚主導型メーカーの求める完成型である通信端末機器としてのデザイン(ディスクール)とユーザーが携帯電話に求める(ディスクール)と大きなギャップがある。そして、日本国内市場を考えるなら、市場はもう拡大しない、国内だけの問題で全員に行き渡ったら市場は膨らまないですね、そういう市場である認識が必要。それから端末メーカーが独立性を失いキャリアが目立ちメーカーブランドが目立たない、これは先ほど何回も言っている通りです。それからもう1つソフトデザイン、ハードウエアーのデザインが別々に行われていてUser Experience Designになっていない。
これも外因性のデザイン戦略だけお話し申し上げますと、「官制キャリアが求める通信端末からファッションガジェットへ」という発想は、当時メインのユーザーは20代から30代の女性であり、通信機器をハンドバックに入れて持ち歩くことはこれは絶対おかしいと無意識のうちに築いている。ユーザーにとっては通信機器ではない、通信はできて当たり前のガジェットである。
それからシェア25%以上までしようと思ったら、さらにブランドマークを付けないでブランド構築をしようと思ったら、強力なディスクールの統一が必要である。それから誠実にユーザーエクスペリエンスデザインを実行しよう、こういう方針を立てています。
では携帯電話の意味を変える、これも要は官制キャリアを考える携帯電話はこんなものだと。でもここへ一緒に入れられるようなものをつくりましょう。実はこれはものすごい抵抗感があって。われわれ、特に部長、課長クラスというのが頭の中にデザインのイデオロギーが、モダンデザインのイデオロギーがカッチリある。このようなファッションデザインなんかできるかいという人がたくさんいました。これは内部ですごく問題になったことが、それはあまりにもシビア過ぎるので話はしませんけれど。こういう携帯電話、ファッションガジェットをつくろうと。
もう1つはキャリアさんがみんなブランドを立てようとするので、それを満足してやらないといけない。これは同じ会社の携帯電話なのですけれども、こうやって見るとなるほどな、それぞれのキャリアのイメージが出ているなという感じになっていると思います。キャリアごとの今言ったどういう表現をしていくかというのを決めています。
見た目何となくシャープのやつはハンドバッグに入りそうだなというイメージをつくった、なおかつ、それぞれのキャリアに合わせたブランド戦略、これは非常に難しいやり方なのですけれども。
それともう1つUser Experience Design、ソリッドデザインとソフトデザインの統合ということで、実はこれは1995年にユーザーインターフェース開発の目的のためにソフトデザイングループをつくり、2000年にソフトデザインセンターを設立しました。それから2004年に、ではお前ソフトもハードも分かるから全部見なさいということでソフトデザインセンターをソフトデザイン室にして総合デザインセンターの傘下に入れて総合デザインセンターの中の開発室とコンセプトモデルの協創を行いました。これも携帯電話コンセプトモデル開発に役に立ちました。
キャリア主導のワンセグテレビが出た時を覚えておられると思うのですけれども、ワンセグは同時にデータ放送を表示しなきゃいけない。これは何かというと、普通テレビに大きな画面が有るのに小さな画面で見ますか。単純な話あり得ないのです。でも官僚主導でやると画面は半分で、文字放送を映しなさいということになってしまいます。単純に大きな画面でテレビをみて、レギュレーションを守ると、サイクロイド携帯になります。
ユーザーのかくれたディスクールに忠実に開発することです。おかげで大ヒット商品になりました。
戦略の4として目標達成するための条件やリソースを整理する。
実はこれは詳しく言うとシャープの組織にかかわることなのですけれども、事業課題とユーザー価値を一致させる、ここでデザインの判断基準をつくりましょうということです。
たいがいそれまではデザインって偉い人がこれでいいだろうといって流れていってしまうことがあるのですけれども、議論にならないのです。議論もできるようにしてしまおう。
例えばですけれども市場をつくりたいというのならば新しいライフスタイルをユーザーに根付かせなければいけない。今回やったのは市場の価値構造を変える、シェア拡大という課題は市場の価値構造を変えて自社に有利な市場構造を構築することです、官僚型のキャリア主導の価値構造からユーザーの価値構造に変える、こういうことをやったのです。
それともう1つは開発プロセスを変えるには、判断基準の決定する会議が必要です。デザイン判断基準をちゃんと合意を取りましょう、それにのっとってデザイン開発、これはコンセプトモデルといわれているのですが、実は、ここが一番難しいのです。これで出来上がってきたものをそれでいいのかという事業課題に合った判断基準をここでつくる。それにのっとってこのコンセプトモデルを採択する。
あとは今までのプロダクトデザインの枠組みだったのですけれども、あとはコンセプトモデルに従ってリアルな商品にしていくだけです。これはそんなに難しくない。今までのやり方で十分できる。目標を達成するために条件やリソースを整理する。コスメティックデザインに秀でたデザイナーを集中する。そこからコスメティックデザインに長けた人材を携帯電話に投入する。
それからファッションやファッショングッズのデザイナーと提携してファッションデザイン開発メソッドを自社デザイナーにキャッチアップさせる。これはデザイナーに勉強させる。著名なファッションデザイナーとコラボレーションワークを行いファッションコスメティックデザインの手法をキャッチアップさせる。
それからコスメティックデザインで最も重要なリソースである、CMFのメソッドの充実である。素材仕上げ加工メーカー、日本中の素材仕上げ加工メーカーに声を掛けてそれを共同開発すると。それからソフトとハード、先ほど何遍も言っていますけれども、ユーザーエクスペリエンスデザインができるように、これは1995年から準備していたソフトとハードのデザイナーを一緒に仕事をさせることにしたらいい。四半期ごとにパースペック的にその成果を見て。
シェア25%以上、2007年に達成しました。その時にやっとシャープの携帯電話のデザインがいいよといううわさが立つように。
ところがこの成功が実は失敗の元なのです。ここからが大事。iPodですね。iPodが2001年、2007年にiPhoneが出ました。2003年にもう既にiTunesができていました。これはもうソフトとハードが一体になっているのです、この世界でもう既に。それを小さな日本の中でわれわれは戦ってきたのだけれど、世界でもっと大変なことをやっていたやつがいる。2005年にグーグルがAndroid社を買収しました。すなわちもう世界はそんなくだらない、今僕がお話ししたような世界にはいなかったのです。ここからまあ言ったらオセロのようにバラバラバラとスマートホンに変わっていった、そういう流れです。
すなわち何が言いたいかというと、このポスト産業資本主義社会のデザインをやりましょうと。
それから先ほど申し上げましたようなこの4つのコンテクスト、時代のコンテクスト、もう1回しっかり考えてほしい。
実はこの発想に至るようになったのは先ほど言いましたポスト産業資本主義社会ということ、それから1970年代から80年代にかけてイタリアンポストモダンの動きがあった、あれらを全部ひっくるめると時代はものすごく変わってしまった。それに取り残された日本というのは今までのデザインのやり方、産業のつくり方でいいのですかということを本当に言いたい。
最後にこれだけはどうしても、私の信仰する岩井克人先生がこんなことおっしゃっています。
「新しい差異を常につくっていかなければ利潤は生まれないという原理は同時に何を意味しているかというと、もはや機械ではなく人間がもっと価値を持つ社会であるということです。利潤を生み出すためには違いを生み出さなくてはならない、それがはっきりしたからです。違いというのはどこかにポロッところがっているわけではなく人間がつくりださなければならないのです。その違いを生み出す能力や知識を持っている人が一番価値を持つ。」
すなわち本当の意味でデザインの時代が来ていますよということ。人と知識が資産です。
以上
第2回セミナー風景